ゼブラフィッシュ(Danio rerio)を研究に用いる利点の一つは、初期胚へのマイクロインジェクションにより容易に遺伝子を操作できることです。このテクニックにより、遺伝物質を含む液体やノックダウン目的の物質を胚割球に挿入することができます。受精したばかりの卵の胚細胞は卵黄の上に存在しています。細胞質への挿入は、割球に直接インジェクション又は卵黄にインジェクションし原形質流動を利用して拡散させることもできます。遺伝子操作を行い胚の表現型を解析することで発生メカニズムの解明につながります。
このビデオでは、ゼブラフィッシュ胚へのマイクロインジェクションの実施方法を紹介しています。インジェクション装置、空気圧により微量注入ができるマイクロインジェクターなどのマイクロインジェクションに必要不可欠な器具、その後、インジェクションを行う際に胚を固定するための寒天培地や、マイクロインジェクション装置のキャリブレーション方法などの重要な準備工程を説明しています。最後に、mRNAの挿入による遺伝子の過剰発現、アンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチド導入による遺伝子サイレンシング、特異的人工プラスミドDNAを用いたトランスジェニックゼブラフィッシュの作製などマイクロインジェクション法のアプリケーション例を紹介しています。
ゼブラフィッシュ胚へのマイクロインジェクション法により溶液を直接注入することで、遺伝子機能や発生動態の研究ができます。インジェクションには通常1から4細胞期の胚が使用されます。なぜなら、この時期の胚には、まだ細胞と卵黄を仕切る膜が存在しないため、液体をどこに注入したとしても組織全体に拡散させることができるためです。マイクロインジェクション法により、タンパク質合成遺伝子の発現やその阻害をコントロールできます。このビデオでは、ピペットの準備、胚の収集、マイクロインジェクション法の工程、そしてこのテクニックが今日の研究でどのように利用されているのかを見ていきます。
まずは、マイクロインジェクションシステムの主要パーツとなる、ステレオスコープ、マイクロインジェクター、ピペットホルダー、マイクロマニピュレーターを紹介します。
マイクロインジェクターは、空気圧を調節し、正確な液量を注入するための装置です。ピペットホルダーは、ピペットを固定し、インジェクターのエアラインと接続しておくために利用します。通常、ピペットホルダーはマイクロマニピュレーター内部に設置されています。この器具を使うことで、ピペットの位置を細かく正確に調整でき、的確なインジェクションが行えます。 また、フットペダルがインジェクターにつながっており、注入を行う時にも自由に両手を使うことができます。そして、ステレオスコープによって胚の観察が可能となり、マイクロインジェクションを行う間、ピペットの先端に焦点を合わせることができます。
インジェクションを始める前に、ガラスニードルを準備する必要があります。マイクロインジェクション用のニードルは、正確な注入を行うために同じサイズである必要があります。ピペットプラーを利用すると、いつも細く鋭いピペットを作製できます。プラーはガラス管に熱を加え引き伸ばす装置で、1度に2本のピペットニードルを作製できます。顕微鏡下、鉗子を使用し、一定量を注入できるように先端をカットします。ゼブラフィッシュ胚に穴を開けるために先端は鋭いのが理想的です。
インジェクション過程を見やすくするため、フェノールレッドを注入液に混合し、インジェクションがうまく行われていることを確認します。
毛細管現象を利用しニードルの先端から注入液をロードします。又は、マイクロローダーシリンジに充填します。準備ができたら、マイクロマニピュレーターに設置されているピペットホルダーにニードルをセットします。
その後、マイクロインジェクターの圧力と時間を設定します。各ニードルのキャリブレーションを行うことで、胚に注入する液量を一定にできます。ステレオスコープを覗きながら、スライド上にのせた一滴のミネラルオイルに溶液を少量注入します。液滴のサイズを測定し、拡散した量を算出します。次に、マイクロインジェクターの圧力をさらに調整し、目的の液滴サイズになるまでこの操作を繰り返します。
ニードルのキャリブレーション終了後は、インジェクション用の胚を準備していきましょう。慎重に胚の位置を定め、インジェクション中に動かないように固定します。チェンバー作製のために、ペトリ皿に鋳型を設置し、融解したアガロースを注ぎ込んだら固まるまで待ちます。
固まったら、鋳型を取り除き、胚の培養液を上から注ぎます。すると胚は鋳型によって作られた窪みに集まります。他にも、アガロースを使って顕微鏡用のスライドに沿って胚を並べる方法があります。そうすることで、マイクロインジェクション用のカラムに配置できます。
胚を配置したら、実際にインジェクションを始めていきましょう。
注入部位は卵黄でも細胞質でも構いませんが、卵黄の方が高度な技術を必要とせず単純です。一方、細胞質への注入はより複雑になりますが、より安定した結果を得ることが出来ます。
卵黄への注入は、マイクロマニピュレーターを使ってニードルを動かし、絨毛膜を破って卵黄に挿入し行います。フットペダルを踏んで、ニードル内の液を卵黄に放出します。原形質流動及び拡散により、注入液は細胞全体に広がっていきます。
細胞質へのインジェクションは胚の配置を慎重に行うことで、効率的に行えます。
インジェクション後は、胚を新しい容器に移し、28.5℃で培養します。頻繁に確認し、死滅した胚は取り除きましょう。
胚へのインジェクションが成功したか否かは、全体的な外観、蛍光マーカー、変化した遺伝子型を解析することで確認できます。
それでは、ゼブラフィッシュ胚へのインジェクション法を使ってどのように遺伝子機能を解明できるのか考えてみましょう。
まずは、合成したmRNAを注入し、特定の遺伝子を過剰発現させ、表現型を解析する手法があります。この手法を使ってタンパク質を発現させることで、細胞骨格再編成など発生に重要な分子について研究できます。
さらに、モルフォリノをインジェクションすることで遺伝子の機能を抑制できます。モルフォリノは安定性のある人工核酸であり、 相補的塩基対として特定のmRNA配列に結合しタンパク質への翻訳を阻害します。その結果mRNAによって合成されるべきタンパク質の欠如が起こり、その欠如が発生にどう影響を及ぼすのかを調べることで特定遺伝子の機能解明につながります。
外来DNAをゼブラフィッシュに導入したいときにもインジェクション法が利用できます。修飾酵素の認識部位を含むDNA配列を挿入することで、効率的にトランスジェニックフィッシュを作製でき、次の世代にも外来遺伝子を引き継ぐことができます。配列次第では、遺伝子発現を特定の組織や発生時期に限定できます。
ここまで初期のゼブラフィッシュ胚へのインジェクション法についてご覧いただきました。このビデオでは、マイクロインジェクションのセットアップ方法、インジェクション用のニードルの使い方、胚の準備、インジェクションテクニックそしてそのアプリケーション例を紹介しました。ご覧いただきありがとうございました。
ゼブラフィッシュの胚にマイクロインジェクションを行うことで、研究者は発生中の動物に直接溶液を注入し、遺伝子の機能や発生動態を研究することができます。1細胞期から4細胞期の胚は、注射によく使用されます。この初期段階では細胞と卵黄を隔てる膜がないため、1つの細胞または卵黄に注入された溶液は、生物全体に均一に広がります。マイクロインジェクションを用いることで、注入する材料の種類に応じて、タンパク質産生遺伝子を発現させたり、オフにしたりすることができます。このビデオでは、ピペットの調製、胚採取、マイクロインジェクションの手順を実演し、この技術が今日の研究室でどのように使用されているかについて説明します。
まず、マイクロインジェクションシステムの主要コンポーネントであるステレオスコープ、マイクロインジェクター、ピペットホルダー、マイクロマニピュレーターについて説明します。
マイクロインジェクターは、ユーザーが調整できる空気の圧力パルスを通じて正確な量を提供します。ピペットホルダーは、処置中に使用するためにピペットを固定し、インジェクターのエアラインに接続します。通常、ピペットホルダーはマイクロマニピュレーターに配置されます。この装置により、研究者は注入手順中にピペットの位置を小さく正確に調整することができます。フットペダルがインジェクターに接続されており、研究者は手を使い続けると同時に、注入材料を送達するための圧力パルスを活性化することができます。最後に、ステレオスコープにより、研究者は胚を見て、マイクロインジェクション手順中にピペットの位置に集中することができます。
マイクロインジェクションを開始する前に、ガラス針を準備する必要があります。マイクロインジェクション針は、注射材料を正確に送達できるように、一貫したサイズでなければなりません。ピペットプーラーは、細くてシャープなピペットを毎回準備するのに役立ちます。プーラーは、ガラスキャピラリーチューブを加熱しながら、チューブを引っ張る力を加え、2本のピペット針を生成します。
顕微鏡下では、鉗子を使用して、ゼブラフィッシュの胚を突き刺すための針の鋭さを維持しながら、一定の量の液体を送達できるように先端を切り取ります。
注入手順を視覚化するために使用される色素であるフェノールレッドは、胚への成功した注入を追跡するために注入溶液と混合することができます。
針には、毛細管現象により先端側から注入液を装填することも、マイクロローダーシリンジで埋め戻すこともできます。注射のために針をロードしたら、マイクロマニピュレーターのピペットホルダーに挿入できます。
注射針の準備が整った後、マイクロインジェクターの圧力と時間の設定を調整して各針をキャリブレーションし、各胚に一貫した容量が送達されるようにします。ステレオスコープの下で、スライド上の鉱油の滴に少量の溶液を注入します。液滴のサイズを測定し、針が分散する体積を計算できます。その後、マイクロインジェクターの圧力をさらに調整し、目的のサイズの液滴が定期的に得られるまでプロセスを繰り返すことができます。
針が準備され、較正されると、胚が採取され、注射用に配置されます。
胚は慎重に配置され、マイクロインジェクションチャンバーによる注入中に静止したままにする必要があります。マイクロインジェクションチャンバーを作成するには、型をペトリ皿に入れ、溶融したアガロースを皿に流し込み、硬化させます。固まったら、型を取り除き、胚培地を上に注ぎます。胚は、トランスファーピペットを使用して型によって作成されたトラフに並べることができます。胚をアガロースに配置する方法の1つは、顕微鏡スライドの端に沿って胚を並べ、マイクロインジェクション用のカラムに配置することです
所定の位置に配置されると、胚を注入する準備が整います。
胚は、卵黄または細胞質のいずれかに注入できます。卵黄への注入はより簡単で、それほど高度な注入技術は必要ありませんが、細胞質への注入はより困難ですが、より堅牢な結果が得られます。卵黄に注入するには、マイクロマニピュレーターを使用して針を動かし、絨毛膜を突き刺し、次に卵黄を突き刺します。次に、フットペダルを軽くたたいて、針の内容物を卵黄に排出します。細胞質の流れと拡散により、注入液が細胞内に流れ込むことができます。
細胞質への注入には、細胞質を効果的に標的にできるように、胚の慎重な位置決めが必要です。
注入後、胚を新しい皿に移し、28.5°Cでインキュベートします。死んだ胚を取り除くために頻繁にチェックされます。
注入の成功を判断するために、胚の全体的な外観、蛍光マーカーの存在、およびジェノタイピングを使用してゲノムの変化を探すことにより、胚を分析できます。
ゼブラフィッシュの胚を注入する方法を理解したところで、科学者がこの技術を使用して遺伝子の機能を理解する方法を見てみましょう。
まず、科学者は合成されたmRNAを注入して特定の遺伝子を過剰発現させ、表現型を観察することでその機能を決定することができます。これと同じ手法は、発生中に発生する細胞骨格の再配列など、分子イベントを強調するタンパク質を発現するためにも使用できます。
第二に、モルフォリノスの注射によって遺伝子をオフにすることができます。モルフォリノは、標準的な核酸塩基対形成およびブロック翻訳によって特定のmRNA配列に結合するように設計できる、安定した合成核酸類似体です。その結果、そのmRNAによって産生されるタンパク質が失われます。この効果により、研究者は、特定の遺伝子が存在しないときに発生がどのように変化するかを見ることにより、特定の遺伝子の発生における役割を理解することができます。
注射は、ゼブラフィッシュに外来DNAを組み込むために使用できます。DNA修飾酵素の認識部位を含む配列を注入することで、科学者はゲノムを改変した「トランスジェニック」魚を効率的に作製することができ、外来遺伝子を将来の世代に受け継ぐことができます。配列デザインによっては、遺伝子発現を特定の組織または特定の発生時点に限定することができます。
JoVEによる初期のゼブラフィッシュ胚のマイクロインジェクションの紹介をご覧になりました。このビデオでは、マイクロインジェクションのセットアップを紹介し、マイクロインジェクション針の調製方法、マイクロインジェクション用の胚の準備方法、マイクロインジェクション技術の実行方法、およびマイクロインジェクションのいくつかのアプリケーションを紹介しています。いつものように、ご覧いただきありがとうございます!
Related Videos
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
93.3K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
62.0K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
79.2K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
45.0K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
13.9K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
24.5K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
57.9K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
84.6K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
100.6K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
89.6K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
25.1K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
57.5K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
40.8K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
18.7K 閲覧数
Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick
54.5K 閲覧数