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Biology I: yeast, Drosophila and C. elegans

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Japanese
生物モデル、キイロショウジョウバエの概要
 
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生物モデル、キイロショウジョウバエの概要

Overview

ミバエとしても知られるキイロショウジョウバエは、生物学の研究で広く利用される有益なモデル生物であり、過去100年の間科学界に多大な貢献をしてきました。このビデオではまずショウジョウバエの細胞周期、環境、食習慣といった生体的特徴を紹介しています。次になぜこのショウジョウバエが素晴らしい生物モデルとなり得るのかについて話しています。例として、メンテナンスが安価に行えること、遺伝的特徴が単純であること、世代時間が短く大量のサンプル数で素早く実験を行えることを挙げています。それからショウジョウバエ研究における重大な発見、Thomas Hunt Morganなどの重要な研究者を紹介しています。最後に、遺伝学から心臓、神経の発達、そして疾患に至るショウジョウバエ研究の応用例をご覧いただけます。

Procedure

キイロショウジョウバエはミバエとしても知られており、通常熟した果物の近くに生育します。 ショウジョウバエは科学分野でモデル生物として使用され、真核生物遺伝学やヒト疾患の研究がなされています。

まずは生体について見ていきましょう。 ショウジョウバエは頭部、胸部、腹部3つの体節をもち、一対の羽、3対の足から成ります。 体長2から4ミリメートル、重さ約1ミリグラムです。 通常メスの方がオスよりも大きく、大きな赤い目、腹部に黒ストライプが入った淡黄色から淡褐色のボディをもっています。

ショウジョウバエの生活環は約2週間で、胚期、幼虫期、蛹期(ようき)、成虫期の4段階があります。 もちろん気温や密度などの因子による影響は受けますが、平均寿命は約60日から80日です。

ショウジョウバエは南極以外どこにでも生息しています。 熱帯地域でより多く見られますが、屋内に移動することで寒い地域でも適応することができます。

ショウジョウバエは12℃から35℃で生きることができます。 理想の生存率、受精率に近付けるためインキュベーターの温度を25℃、湿度を60%に保っています。

ショウジョウバエの食料は、非常に熟して腐りかけた果物や野菜にいる酵母などの微生物です。 実際にはコーンミル、糖液、寒天、糖、酵母、水で構成された餌を与えます。

ショウジョウバエの生体を少し知ったところで、研究のためのモデル生物に選ぶ利点について考えてみましょう。 まず、その小ささから扱いやすく麻酔しやすいことです。

さらに、研究室でのメンテナンスや飼育にお金がかかりません。

短い生活環のおかげで、世代間隔は約2週間です。 メスは繁殖力に富み、一日に100個の卵を産みます。 そのためハエの実験では多数のサンプルを用いることができ、かつ迅速に行うことができます。

ショウジョウバエの遺伝子は哺乳類に比べ単純で研究しやすいことも挙げられます。

ショウジョウバエのゲノムは14000の遺伝子をもった4対の染色体からなり、遺伝子重複も限られています。 遺伝子重複とは、一つ以上の遺伝子により生体機能が制御されていることを言います。 例えばマウスの場合、ある一つのフェノタイプに対し3つのコピー遺伝子があります。 その遺伝子のひとつが変異を起こしても、他の遺伝子によって補正され発生や生理的な変化が見られません。(E) そのためマウスでの突然変異誘発実験では十分な情報が得られません。 それに比べハエは、あるフェノタイプに対して一つの遺伝子しかもたないので、遺伝子変異がフェノタイプに反映され、その機能を特定することができます。

さらに、X線又は紫外線照射、相同組み換えにより遺伝子変異を誘発できます。 長年に渡る研究によりショウジョウバエに関するデータは豊富であり、変異遺伝子を持つハエや遺伝学的技術の入手も簡単に行えます。

そして、ヒトや他の哺乳類との著しい遺伝的類似性をもつことが、ハエが素晴らしいモデル生物である最たる所以です。 約50%の遺伝子が哺乳類と一致し、共通の祖先をもつことが分かっています。 さらには、ヒトの病気に関連する遺伝子の75%が相同分子種であり、ハエとヒトは遺伝的に似ていることが分かります。

ショウジョウバエが研究のための素晴らしいモデル生物であることが分かったところで、今度はこれまでの素晴らしい研究成果を見ていきましょう。 20世紀初頭、 Thomas Hunt Morganのラボで、ハエが初めてモデル生物として使用されました。 1910年、 Morganは赤目のハエの中に白い目をもつハエがいるのを見つけます。 顕微鏡で染色体を観察すると、あるバンドパターンが白目をもつハエだけに表れていることに気付きました。 そしてこの実験から遺伝子継承における染色体説を実証し、1933年ノーベル賞を受賞しました。(E)

1927年、 Morganラボの学生であった Hermann Mullerが、X線による遺伝子突然変異を発見しました。 それにより1946年、ノーベル賞を受賞しました。

70から80年代にかけて Ed Lewis、Christiane Nusslein-Volhard、 Eric Wieschausが発生に不可欠となる遺伝子群を同定しました。 彼らは胚の背腹軸と前後軸の形成や体節の形成に関わる遺伝子を解明しました。 それにより3人は1995年ノーベル賞を受賞しました。

1990年代、 Jules Hoffmannは先天性免疫の研究にショウジョウバエを用い、バクテリアのような病原体に対する防御システムを解明しました。 トール様受容体が病原体の感知とその防御に重要な役割を担っていることを実証しました。 ショウジョウバエの胚の中には病原体を認識し反応する細胞、胚血球があります。 Hoffman はこの自然免疫の発生に関する研究により2011年、哺乳類での自然免疫の研究をした Bruce Beutler 、 Ralph Steinmanとノーベル賞を共同受賞しました。

ショウジョウバエは遺伝学からヒト疾患に至るまでたくさんの重要な研究に適用されています。 通常発生遺伝子は相同性があるため、ハエの発生を制御する遺伝子の同定、特性化はヒトの発生を理解するうえで役に立ちます。 アイレス遺伝子はハエの発生に重要です。 哺乳類におけるアイレスの相同体も類似の機能をもっており、ショウジョウバエの目の発生はヒトの目の発生や疾患を理解する上で重要な手掛かりとなります。

さらに神経疾患の解明にもショウジョウバエの研究が応用されます。 ハエにパーキンソン病に関わるヒトの遺伝子を発現させると、徐々にニューロンの脱落、タンパク質凝集体の蓄積が起こり最終的に自発運動が失われます。

ハエの研究により、人間の心臓発生とその働きについても学ぶことができます。 心臓機能に関わる遺伝子の多くはハエとヒトとの間で保存されており、人間同様、運動訓練により肉体的なパフォーマンスが向上します。

今回の JoVEキイロショウジョウバエ導入編では、ショウジョウバエの特徴、有力なモデル生物となる理由、重要な発見と応用について学びました。 ヒトとは大きく違うように思われがちなショウジョウバエを利用した研究は、ヒトの発生や疾患について知る重要な情報源となります。 ショウジョウバエの研究がさらにどのように応用されていくか、この先が楽しみですね。

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