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Biology II: Mouse, Zebrafish, and Chick

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実験用マウス入門: Mus musculus (ハツカネズミ)

Summary

Overview

マウス(ハツカネズミ)は、ヒト疾患の進行や発症を研究するためのモデル生物として活躍しています。サイズや外観上の違いに関わらず、マウスとヒトの遺伝子には顕著な類似性があり、またマウスの繁殖力の高さや成長の早さなど、科学研究に有益な哺乳動物のモデルとなる特徴を兼ね揃えています。

このビデオでは、マウスの生物としての特徴と研究モデルとしての多くの利点について簡単に説明し、その後、例えば、その遺伝子構造により体毛の欠如と免疫系が阻害されたヌードマウスなどの一般的な実験用マウスを紹介しています。また、遺伝子研究にマウスを用いた最初の実験から、免疫学、神経生物学におけるノーベル賞受賞研究まで、マウスを使った研究の歴史を振り返っています。そして最後に、モリスウォーターメイズなど有名な行動実験や哺乳動物の胚発生の追跡調査実験などを紹介しています。

Procedure

げっ歯類は研究に用いられる動物の約90%を占めており、その大多数はマウスです。

マウスの世話は簡単で費用もあまりかからず、遺伝子はヒトと類似しており、さらに世代時間が短く繁殖力が高いため、遺伝子操作や研究に多く利用されます。

これから、モデル生物としてのマウスについて、そして生物医学研究におけるアプリケーション例を紹介していきます。

ハツカネズミ、Mus musculusは、脊椎動物亜門、哺乳綱に属します。 哺乳類で最も大きなグループは、齧歯目(げっしもく)であり、一生伸び続ける大きな門歯を持つのが特徴です。

マウスは最も小型の哺乳動物であり、生まれたときの平均体重は1g、大人になると25gから40gになります。

他の哺乳動物と比べ、マウスの寿命は比較的短いです。18日から21日の妊娠期間を経て、毛がなく目が開いていない状態で子が生まれてきます。最初の数週間は母親のミルクで育ちますが、たったの8週で繁殖力を持つ大人のマウスに成長します。

マウスは様々な環境下に適応する能力を持っているため、南極を除く全ての大陸に生育しています。 片利共生型(へんりきょうせいがた)であるマウスは、否が応でも、ヒトと密接に結び付いて生きていきます。

ではなぜ、このお馴染みの生物が研究界で人気を博しているのでしょうか?

マウスは短期間でたくさんの子孫を残すことができるため、素早く低コストで例数を揃えられることが科学研究を行う上で利点となります。

それに加え、マウスはとても小さいため、最小限のスペースでの飼育が可能です。これはその他多くの哺乳動物には当てはまりません。見た目こそ大きく違いますが、マウスやその他有胎盤哺乳類とヒトの遺伝子には顕著な類似性が見られます。

マウスのゲノムは全て解読されており、ノックアウトマウスの作製のような遺伝子操作が容易に行えます。元の遺伝子と選択マーカーを使って特異遺伝子をコードした断片を 入れ替えることでノックアウトマウスを作製できます。

ノックアウトマウスを利用することで個々の遺伝子産物の生理的役割を確認できます。この実験では、フューリンと呼ばれる酵素の欠如による胚の心拍数の変化を測定しています。

多くの近交系マウスが知られています。近交系マウスは個々のマウスの遺伝的多様性により起こる個体差が少なく、実験の再現性を向上させることができます。

では実験にはどの系統を利用すべきでしょうか? 単に好きな毛の色で選ぶものではなく、むしろ、毛のないマウスを好む人もいるでしょう。このヌードマウスと呼ばれる小さな生き物は、その遺伝子構造により体毛の欠如や免疫系の阻害が引き起こされます。その結果、ヌードマウスはin vivo実験で非自己組織の移植が容易に行え、ここでの研究のように蛍光標識したがん細胞の生着(せいちゃく)を観察できます。

科学におけるマウスの重要性を知ったところで、このモデル生物を用いて成された大きな研究成果を見ていきましょう。

20世紀初頭、William E. Castleがマウスを使って初めて遺伝子の研究を行いました。Castleと学生たちは Abbie Lathropが近所でペットとして飼育していたマウスを大量に買い取り研究対象としました。面白いことに、それらの中には現在も研究で利用される一般的な系統のC57BL/6もいました。

20世紀後半、Sir Alexander Flemingは、ペトリ皿内のバクテリアを用いてペニシリンの抗菌性を発見しました。しかしこのペニシリンは、10年後に Howard FloreyとErnst Chainが、溶血連鎖球菌に感染したマウスを回復させる効力があることを確認するまで沈黙したままでした。

1945年、Fleming、Florey、Chainの3人はこの業績を讃えられ、ノーベル賞を共同受賞しました。

抗生物質が発見されたおよそ同時期に、George Snellは 主要組織適合遺伝子複合体、MHC(として知られる染色体領域)を発見しました。ヒトではHLAと呼ばれ、ここに異物を識別し免疫細胞を活性化する受容体がコードされています。これら受容体の特殊変異体により宿主組織が異物として認識されると自己免疫疾患が誘発されてしまいます。

その後Rolf Zinkernagel、Peter Dohertyの2人は、マウスモデルを使って、免疫システムにおけるT細胞の抗原認識が、免疫応答開始の司令塔となることを確認しました。

1997年、Stanley Prusinerは、異常なプリオンの存在を神経変性疾患、スクレイピーに感染したマウス体内で 発見したことに対しノーベル賞を受賞しました。

また、Richard Axel、Linda Buckが成し遂げた業績にもマウスが貢献しています。この二人は膨大にある嗅覚受容体遺伝子ファミリーを初めて単離しました。嗅上皮(きゅうじょうひ)のニューロンに発現したこのタンパク質が、吸い込んだ匂い物質と結合し活性化されます。さらに、BuckとAxel はこれら受容体によって作られたシグナルがどのように神経伝達されるのかを解明することに成功し、2004年ノーベル賞を受賞しました。

歴史上重大な実験へのマウスの貢献度を学んだところで、次は今日の研究について見ていきましょう。まずは、マウスが頻繁に利用される行動実験です。

マウスは運動バランスの測定に最適なモデルです。また、モリスウォーターメイズのような行動パラダイムを用いた記憶と想起の研究でもマウスは活躍します。これは空間記憶のテストです。視覚的刺激によりプラットホームを見つけるように訓練し、プールの水から脱出させる実験です。

免疫システムも私達と類似しているため、マウスは感染性疾患の研究でも活躍しています。この実験では、リステリア菌に汚染されたパンを食べたマウスの様々な組織を単離し、どのように食品媒介病原菌が全身に広がるのか、そのメカニズムの解明に努めています。

ウイルス疾患の進行の研究にもマウスが利用されます。この実験では、マウスの鼻腔内からヘルペスウイルスを感染させ、病原体に対する生理的な反応を調べています。

遺伝子の高い類似性は、マウスがヒト疾患の解明に役立つだけではなく、ヒトの発生メカニズムの解明にも有用であることを意味します。ここでは、胚期に下顎(かがく)を取り出し培養することで、初期の歯の発生について研究しています。

ここまで、実験用マウス入門編をご覧いただきました。マウスの一般的な特徴、なぜ研究に頻繁に利用されるのか、マウスモデルを用いて成された大きな発見、そして今日の研究を数例紹介しました。JoVEサイエンスエジュケーションをご覧いただきありがとうございました。

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