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細胞および分子神経科学への入門
 
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細胞および分子神経科学への入門

Summary

Overview

細胞及び分子神経科学は現在発展中の神経科学の比較的新しい分野です。この分野では、遺伝子や分子シグナリングそして細胞形態について研究し、脳の発達や機能、そして病気の原因の解明が試みられています。

このビデオでは、細胞及び分子神経科学研究の歴史的背景を紹介しています。ここでは、1953年のDNAの発見から比較的最近のイオンチャネルのクローン化に至るまでの研究成果をご覧になれます。次に、この分野の主な研究内容を紹介しています。ニューロン活動に影響を与える遺伝子メカニズムや経験依存的な神経系の形態変化などの研究が登場します。そして、ニューロンの遺伝子発現解析や遺伝子操作法、さらにニューロンとその一部の観察方法などのこの分野でよく利用される実験方法について解説しています。最後に、今日の研究へのアプリケーション例を紹介しています。ここでは、細胞及び分子生物学的アプローチがニューロンの解析とその機能の探索にどう利用されているのかご覧いただけます。

Procedure

素晴らしい感動的な経験をするとき、脳内では分子や遺伝子に加え、細胞構造が重要な役割を果たします。

細胞および分子神経科学は、神経系に影響を与える遺伝子やシグナリング分子そして細胞形態のメカニズムを明らかにすることを目的としており、神経科学の中でも比較的新しい分野です。

このビデオでは、細胞および分子神経科学分野の歴史的背景や現在進められている主な研究内容、そしてそれらの研究に利用される実験方法を紹介していきます。

それでは早速この新しい研究分野のルーツをたどってみましょう。

分子技術を発展させた解剖学者と細胞生物学者たちは初期の神経科学研究に貢献してきました。

1930年代に物理学者や化学者、理論家たちが生物学者の仲間入りをしたことで、分子革命が始まります。その中でWatsonとCrickによりDNAの構造が明らかにされ、セントラルドグマつまり、DNAが細胞の機能に重要なタンパク質をコードしているという概念が提唱されました。

これは神経科学者が神経系に特異的な遺伝子とタンパク質の役割の解明に貢献した最初の研究です。

そして1960年代になると、Seymour Benzerによって行動異常を示すショウジョウバエの突然変異体の研究から自発運動などの行動を制御する鍵となる遺伝子が同定されます。それと同時期に、Eric Kandelにより学習などの複雑な機構にも分子的基盤が関わっていることが証明されます。海の軟体動物アメフラシの神経組織抽出物を解析し、細胞内シグナル伝達物質であるサイクリックAMPが学習のメカニズムの重要な役割を担う可能性を示唆しました。

1980年代、沼正作研究室はニューロン機能の鍵分子となる電位依存性ナトリウムチャネルのクローン化に初めて成功します。膜タンパク質がもつ機能ドメインの解析により、イオンがニューロンを活性化するメカニズムの解明につながりました。

もうひとつの重要な分子メカニズムは1990年代に提唱された神経同士がネットワークを有するという概念です。Thomas Sudhofにより神経伝達物質を含む小胞体と膜をつなげるタンパク質の形を変化させる物質がカルシウムイオンであることが特定されます。さらに、活動電位により適当なタイミングで化学信号がシナプスへと放出される仕組みが明らにされました。

このように神経生理から行動に至るまで 分子神経科学研究は多くのメカニズムの解明に貢献してきました。

これまでの大きな研究成果に加え、現在も様々な研究が進められています。その研究内容を覗いてみましょう。

まずは、神経機能を制御する遺伝子を同定する試みです。例えば、ある特定遺伝子のヌクレオチドの伸長が原因となり、細胞の健康が失われていくことでハンチントン病などの疾患が発生することが分かっています。

他にも特定遺伝子の発現を制御する転写因子について研究が進められています。神経系特異的な転写因子のDNA標的部位を特定できれば、遺伝的ブログラムについての理解をさらに深めることが可能となります。

また、分子が神経活動を制御するシステムも調べられています。例えば、イオンが細胞膜を通過し活動電位が発生する機構についての研究が行われています。この研究では麻酔薬であるリドカインが選択的にイオンチャネルを阻害することで、脳へ伝わる痛みシグナルを遮断することが明らかにされました。

その他にも、ニューロンのシナプス間相互作用の研究が進められています。ここでは、シナプスの統合性を維持する分子の同定と病的状態のシナプスを改善する方法が探索されています。

神経可塑性とは、神経系がその経験に基づき化学的および形態的に変化し、順応する能力のことです。

精巧なシナプス構造の経験依存的可塑性に焦点が当てられています。それには枝分かれした樹状突起にあるスパインの形態変化が深く関わっていると考えられています。

また、経験によるシナプス膜上の神経伝達物質受容体の伝達効率の変化にも関心をもたれています。ある刺激によりシナプスのシグナル伝達が増強されることがあり、この現象は長期増強又はLTPと呼ばれます。

このように、細胞および分子神経科学は顕微鏡レベルで様々な研究を行う神経科学の一分野です。

この分野の研究内容を知ったところで、ここからは それらの研究を進めるためのツールを見ていきましょう。

神経機能を制御する遺伝子を調べるために、様々なテクニックが利用されます。マイクロアレイは 大量の遺伝子発現を 同時に定量解析するためのツールです。 何千という一本鎖DNA断片つまり「プローブ」が基盤上に配置されています。ニューロンから抽出した遺伝子をそのプローブに結合させ、蛍光マーカーを使ってサンプル内に存在する目的の配列を正確に検出することができます。

リアルタイム又は定量的PCRは、mRNA転写物を間接的に定量するPCR法の原理を利用したテクニックです。

このアプローチ法は、個々の遺伝子発現レベルを検出したいときに非常に有用です。

そして非常に重要となるのが、神経系の遺伝子機能を調べるための遺伝子トランスジェニック技術です。このテクニックを利用して、ゲノムの一部を無効化したノックアウト動物や人工的に操作した遺伝子を導入したトランスジェニック動物を作製できます。作製動物の神経組織を様々な手法で解析し遺伝子発現の変化が細胞機能に与える影響について研究されています。

神経シグナリングの分子制御について研究するために、動物の脳組織を取り出しその組織片又は単離した細胞をin vitroで培養する神経細胞の初代培養が行われます。

このシステムの利点は、遺伝子導入により遺伝子発現を操作し目的のシグナリングを効率的に研究できることです。

遺伝子操作後はタンパク質の局在性を観察していきます。解析には、細胞形態学的手法又は電気生理学的手法が利用されます。

イメージング技術の飛躍的発展により、現在神経可塑性の研究はさらに進展しています。

二光子顕微鏡が開発され、生物組織の深層部まで詳細に観察できるようになりました。頭蓋骨に「ウィンドウ」を開け、実験処置前後の動物の脳細胞形態を解析することで、学習とは何なのか神経レベルでの研究が可能となります。

イメージング技術を利用して、保存しておいた神経組織の分子成分を解析することもできます。また、蛍光顕微鏡は免疫組織化学法で頻繁に用いられるツールです。サンプルを蛍光標識抗体で染色し特定タンパク質の局在性を確認できます。

ここまで主な研究内容とその実験方法を見てきました。ここからは今日の研究へのアプリケーション例を紹介していきます。

極少量のニューロンをマイクロアレイで解析することで、神経細胞サブタイプに特異的な遺伝子発現の違いを知ることができます。ここでは、網膜から単一ニューロンを単離し、細胞内のRNAを抽出しています。

それにより、異なる機能や形態学的特徴を有する細胞のmRNA発現を解析することができます。

分子技術を用いることで、損傷後の神経系がどのように反応しているか理解を深める事ができます。大人のマウスから脊髄後根神経節、DRGを単離し初代培養を行います。DRGニューロンに遺伝子サイレンシング因子を導入することで、新しい軸索の再生へのタンパク質の効果を調べることができます。

神経伝達物質の受容体発現がシナプス膜上でどのように制御されているのか研究するために特殊なイメージング技術が利用されます。この実験では、培養したニューロンの膜タンパク質を蛍光標識するために遺伝子を導入しています。

そして共焦点顕微鏡を使用し、強い光を照射して膜の一部を退色させ、蛍光色素分子を破壊します。

その後光退色後蛍光回復法、FRAPを用いて、新たな蛍光タンパク質が細胞膜へと移動し蛍光が回復する様子を観察します。

様々な環境条件下で蛍光の拡散速度を定量し比較します。

ここまでJoVE細胞および分子神経科学入門編をご覧いただきました。

このビデオでは、この研究分野の歴史的背景、そして現在の研究内容とその実験方法を紹介しました。

サイエンスエジュケーションシリーズをご覧いただきありがとうございました。

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