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植物組織培養

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Biology
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Plant Tissue Culture

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伝統的に、農家は 何世代にもわたって 作物を交配させ、より多くの収穫量、より大きな種子、より甘い果実、より強い耐病性など、望ましい形質を 持つ作物を生産してきました。接ぎ木や他家受粉 を行うことで、様々な新品種の作物を 作り出すことができます。しかし、これらの手法は 時間がかかる上に不特定であるため、望ましい形質が排除されてしまう 可能性があります。その代わりとして、植物組織培養などの インビトロ技術を使えば、望ましい形質を持つ 植物のクローンを素早く 大量に生産できます。この技術は「全能性」に 基づいています。全能性とは、植物の一部に 適切な成長調節剤と 環境を与えることで、そこから完全な植物を 発生させる能力です。使用する植物の部分、または外植片によって 組織培養技術は いくつかの種類に 区別されます。例えば、カルス培養では 培地に置かれた 外植組織が急速に 細胞分裂を行い、カルスと呼ばれる 未分化の細胞の 塊を形成します。オーキシンやサイトカイニンなどの 植物ホルモンは 植物の成長の制御で 様々な役割を果たし、カルスが多様な 植物の部位へと 分化するのを助けます。オーキシンよりも サイトカイニンの 濃度を高くすると シュートが形成され、その逆で、オーキシンの 濃度を高くすると 根が形成されます。両方のホルモンの 同じ濃度にすると、根とシュートが形成され、若い植物が生み出されます。農業では、植物に 深刻な病気を 引き起こすウイルスは 大きな悩みの種です。ウイルスに感染していない 植物を作るには、分裂組織培養が特に有用です。この手法では、急速に 分裂している茎頂を 外植片として使用します。このような茎頂は、通常 ウイルスに感染していません。植物組織培養は、望ましい植物を クローンできるだけでなく、遺伝子組み換えも 容易に行うことができます。遺伝子組み換えの 一種では、植物の健康、大きさ、収穫量を向上させる 可能性のある遺伝子を 作物に組み込みます。組み込まれた遺伝子は 子孫に受け継がれ、望ましい形質を持った植物が 生産されるため、さらに組織培養をする必要もありません。例えば、除草剤耐性 遺伝子が組み込まれた 遺伝子組み換え(GM)トウモロコシは、米国内の農家で 広く栽培されています。この組み換えによって、除草剤を散布しても、作物に影響を与えることなく 雑草だけを枯らすことができます。

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植物組織培養

植物の組織培養は、初歩的な科学から応用科学まで幅広く利用されています。その用途は、植物の発生研究から、機能的な遺伝子研究、作物の改良、商業的なマイクロプロパゲーション、ウイルスの除去、希少種の保存など、多岐にわたます。

植物組織の培養は、植物組織が培地と適切な環境を与えられたときに、新しい植物全体を生み出す能力に依存しています。植物の細胞や組織のこの能力を「全能性」といいます。

植物組織培養の基本的な手順は次の4つです。

  1. 健康な親株(explant)を選択します。
  2. explantの表面に露出している微生物汚染を除去します。
  3. explantを適切な培地に接種します。
  4. 適切な温度、湿度、空気の質、および照明を備えた制御された環境で培養します。

また、植物組織の培養には次の4つのタイプがあり、培養の目的や植物の種類に応じて選択します。

  1. 細胞培養(配偶子細胞、細胞懸濁液、プロトプラスト培養など)
  2. 組織培養(カルス、分化した組織)
  3. 器官培養(根、芽、葯などのあらゆる器官)

植物組織培養の一般的な用途の一つに、体外でのクローン増殖(マイクロプロパゲーションとも呼ばれる)があります。植物組織培養は、種子の発芽に問題がある植物(再石灰化植物)や種子の生存期間が短い植物の繁殖に役立ちます。マイクロプロパゲーションはどの種にも適用できますが、商業的に必要な植物や絶滅の危機に瀕している植物に対して推奨されています。例えば、マイクロプロパゲーションは、ヒマラヤ原産のPaphiopedilum delenatiiのようなランの栽培に広く用いられています。これらの蘭は、伝統的に種子で繁殖させます。しかし、成熟した蘭が種子を生産するには約2〜3年かかます。そのため、植物組織培養は、この種を絶滅から守り、商業的な成功を収めるための理想的な方法となっています。

マイクロプロパゲーションには次の3つの方法があります。

  1. 頂芽や腋芽を利用する方法
  2. 不定芽を利用する方法
  3. 体細胞の親株を利用して体細胞胚を形成する方法

それぞれの技術が成功するかどうかは、遺伝的背景、培地、培養条件などに左右されます。