進化について よくある誤解に、進化には自然選択が必要である、というものがあります。しかしながら、これはすべての進化に 当てはまるわけではありません。遺伝的浮動は、自然選択の作用なしに 進化を起こすメカニズムの一つです。遺伝的浮動は、偶然によって起きる 集団内における対立遺伝子頻度の 変化と定義されます。これがどういうことなのか、キリンの個体群を例として 見てみましょう。この例では、黄褐色と 茶色の対立遺伝子を それぞれの色が付いた ビー玉で表します。初めの段階では、どちらの色も同じ数のビー玉が 存在していると想定します。この集団から オスとメスを交配させて 次の世代を 産み出すため、1ペアあたり4個の 対立遺伝子を 選択します。交配するペアを ランダムに選択すると、同じ色のビー玉が2個ずつと なる場合もありますが、確率的に、ペアの中には すべて同じ色のビー玉を持つペアや、3個同じ色で1個だけ違う色の ビー玉を持つペアも現れます。このような確率偏差が すべての交配で起きるため、次世代における それぞれの対立遺伝子の 数は、前の世代とは 異なります。このように、時間とともに 対立遺伝子頻度が変化することを 遺伝的浮動と言います。遺伝的浮動の中には、対立遺伝子頻度を 大きく変化させるものがあります。ボトルネック効果と ファウンダー効果は そのような大規模な 遺伝的浮動の代表例です。ボトルネック効果は 集団の個体数が 1世代またはそれ以上に渡って、大きく減少した場合に起きます。ビー玉の入った瓶を 想像してみてください。色の異なるビー玉は、それぞれ異なる 対立遺伝子を表しています。瓶をひっくり返すと ボトルネック効果によって ビー玉が数個だけランダムに出てきます。この出てきたビー玉の 集まりは、生き残った 個体群を表しています。生き残った個体群と 初めの個体群では、含まれる 遺伝子の比率が異なります。新しい世代では、遺伝的多様性が 大きく失われています。これが、大規模な遺伝的浮動です。自然災害や 乱獲などのイベントが このようなボトルネック効果の 原因となります。十分な個体数がいる 大きな集団は、多様性を大きく失うことなく、そのようなイベントに耐えることができます。一方で、小さな集団では、何世代にも渡って混乱が続く場合や、崩壊してしまう場合もあります。大規模な遺伝的浮動の 2つ目の例である ファウンダー効果は、集団の一部が 元の集団から分離し、隔離されて新たな 創始者集団」を つくるときに起きる効果です。ボトルネック効果と類似した 結果が起きます。新しくできた個体群では 遺伝的多様性が 失われるため、元の個体群とは含まれる 遺伝子の比率が異なります。つまり、低温の環境では 熱を吸収する 能力の高い、メラニンの多い テントウムシがより多く 生き残るように、環境に適した特性が 選択されることで 対立遺伝子頻度が 変化する 適応遺伝とは異なり、遺伝的浮動では 確率的変化によって 進化が引き起こされます。例えば、壊滅的なイベントや 移住などによって 個体数がランダムに 減った場合に このような進化が起きます。