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Biology I: yeast, Drosophila and C. elegans

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C. elegans の走化性導入

Overview

走化性 (ケモタキシス)は、化学刺激に反応して細胞や生物が移動する現象です。自然界の生命体にとって、食料を察知するため、又有害な刺激から逃避するために走化性は非常に重要となります。さらに細胞レベルでも重要な役割を担っています。例えば、受精するために精子が卵子に向かって移動していくのにも走化性が関わっています。走化性実験にはC. elegansが頻繁に使用されています。土壌中のC. elegansは食料に向かって移動し、重金属、低pHの物質、洗剤等からは逃避することが分かっています。このビデオでは、アッセイ用プレートと線虫の準備、実験方法、データ解析など走化性アッセイの実施方法を説明しています。それから、このC. elegansの走化性アッセイが、学習と記憶、嗅覚順応、アルツハイマー病などの神経疾患の研究にどのように利用されているか紹介しています。C. elegansの走化性実験は、生物学的プロセスでの細胞や遺伝子メカニズムの解明、さらにはヒト生物学、発生、疾患解明のために無限に近い可能性を秘めているのです。

Procedure

化学物質の刺激に対する細胞移動や反応は一般にケモタキシス、又は走化性と呼ばれます。 これから、C.エレガンスを用いた走化性アッセイ法を学んでいきます。 またこのアッセイ法を用い、どのように学習記憶や嗅覚順応、アルツハイマー病等の研究が進められているか見て行きましょう。

まず、走化性には二つのタイプがあります。 刺激物質に向かって移動する正の走化性。 逆に、刺激物質から離れようとする負の走化性です。 これにより生物は有害物質から逃れることができます。

走化性には、生命体が食料に向かって動くようなものや生体の細胞レベルで起こるものがあります。 例えば、免疫細胞が病原体に向かって遊走することや、精子が卵子から遊離される走化性因子に向かって移動することなどが挙げられます。 また、走化性は発生段階で、組織や臓器を作るための重要な工程としても知られています。

野生の土壌に生息するC.エレガンスにとって、主要な食料となるバクテリアを察知するためにも走化性は非常に重要です。 逆に、有害となる重金属や低pHの物質、洗剤等からは逃避しようとします。

通常、走化性アッセイは、アッセイ用プレートを準備することから始まります。 定規とマーカーを使って5cmの 線虫栄養培地 を分割し、等間隔になるように4分円(しぶんえん)を作製します。 そして半径0.5cmとなるように4分円の中心に円を描きます。 ここがスタート地点となります。 4分円の中心からそれぞれ等距離に印をつけます。

アッセイへのポイントは同齢の若い線虫を用いることです。 これにより、発生段階の違いによる走化性への影響を除外できます。 準備ができたら、その線虫含有培地に S-basal buffer 2mlを加えます。 培地を回転させ、線虫を洗います。

次にその混合液を遠心チューブに移します。 遠心分離のあと上澄みを捨て、 S-basal 溶液を少量加え、線虫を軽く洗います。 同じ操作をあと2回繰り返します。 その後、おおよそ100 µl の S-basal 溶液を取り除きます。 次にその混合液2ulをNGMプレートに加えます。 顕微鏡下で線虫の数を数えます。 2ulの溶液中に50から250匹の線虫を確認できるのが理想的です。

準備が整ったところで、走化性アッセイを始めていきましょう。 まず、試験溶液とアジ化ナトリウム0.5Mを等量混合します。 アジ化ナトリウムは最終地点に達した線虫を動けないようにするためのものです。 コントロール溶液にも同様に加えます。 次に線虫含有液2ulを培地の中心に播種します。 そして、それぞれ2ulの試験溶液とコントロール溶液を、先ほど印をつけた場所に塗ります。 溶液が浸透したら蓋をかぶせ、プレートを逆さにし、1時間待ちます。

1時間後、その化学刺激に対する反応を、四分円内の線虫の数を数えることで解析できます。 もし化学刺激が誘引性であれば、試験溶液の4分円中により多くの線虫が確認出来ます。 もし化学刺激が中性であれば、線虫の数は各4分円で同数になるはずです。

これらのデータを用いて、ケモタキシスインデックスを計算します。 これは試験溶液内の線虫の数からコントロール溶液内の線虫の数を差し引き、線虫の総数で割ったものです。 そのインデックスが+1に近いほど誘引性を示し、逆に-1に近いほど忌避性を示しています。

走化性アッセイのセットアップ法を学んだところで、次はこれがサイエンスの疑問解決にどう貢献するのか見ていきましょう。

c.エレガンスの走化性アッセイを用いて、一つは学習記憶を評価することができます。 例えば、化学刺激と餌を関連付けて覚えさせます。 よく食べる線虫は1時間もするとお腹をすかせます。 そこで、ブタノンのような化学物質を餌に混ぜます。

次に、ブタノンが入っていない餌プレートを準備します。 走化性アッセイを用いることで、餌とブタノンがどれだけ関連付けられているか洞察することができます。 他にも、どの遺伝子あるいは神経細胞が学習記憶に重要であるか調べることができます。

嗅覚順応は知覚神経が何度も刺激され、低感受性になることで誘発されます。 これにより、より重要な刺激に対して反応ができる仕組みになっています。 例えば、匂いにある一定時間さらされたC.エレガンスは、嗅覚順応により、走化性アッセイで誘引されなくなります。 High throughput 遺伝子検査を行うことで、egl-4のような嗅覚順応を制御する遺伝子を見つけ出すことができます。 加えて、あるタンパク質を蛍光標識した線虫を利用し、嗅覚順応が起こる際のタンパク質の局在を調べることもできます。

最後に、c.エレガンスはアルツハイマー病の研究にも応用可能です。 研究者が神経細胞中のβアミロイド、に蛍光標識をしています。 βアミロイドはアルツハイマー病の特徴となる物質です。 興味深いことに、ある神経細胞集団にβアミロイドが発現した線虫は、走化性因子に誘引されないということが明らかとなっています。 神経細胞や組織におけるβアミロイドの発現様式を見ながら、どんな化合物がβアミロイドの発現を軽減するのか調べることができ、さらにはアルツハイマー病の治療薬の発見につながる可能性があります。

今回のJoVE、Cエレガンスの走化性導入編では、走化性とは何か、またその重要性を学びました。 その後実際に走化性アッセイについて見ていきました。 更に、このケモタキシスがどのように、学習記憶や嗅覚順応、さらにはアルツハイマー病研究に利用されているのかを紹介しました。 ご覧いただきありがとうございました。

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